――呪われた猫は、旅に出る。
『虚ろ』――
それは、動物から植物にいたるまで、大地に生きる全ての生命をおびやかす謎の現象だった。
火楼の村は『虚ろ』の被害から重度の食糧難に陥り、時には死体すらも食料として喰らう生活を余儀なくされていた。
さらなる飢えをしのぐために矛先が向けられたのは――生きた肉の塊。
そう、万策尽きた猫たちのどうしようもない苦肉の策は、「生贄」とい手段だった。村の猫からひとり、生贄が選ばれる。
同じ猫の腹を満たすために――。
村の猫たちはみな、明日は我が身と怯えている。
そんな末期的な状況にある村で暮らすコノエだったが、ある日、彼の体に変化が現れる。
黒い痣のような文様が体に浮かび、耳と尾が黒く染まってしまったのだ。
それは、不吉の象徴として古くから言い伝えられている呪いの証だった。
――出よう、この村を。
共食いをせねば明日を生きられぬ猫たちに、話し合う余裕などない。村の猫たちにこんな姿を見られたら……危険を感じたコノエは、火楼を出ることを決意する。
目指すは祇沙で最も大きい街、藍閃。
藍閃なら、この身体を元に戻す方法が見つかるかも知れない。
そう信じて、コノエは『虚ろ』の危険に惑いながらも旅に出るのだった。