――今回実に2年ぶりとなると思いますが、ドラマCDという形で『処女はお姉さまに恋してる』の世界に関わられて、
いかがだったでしょうか?
いや、もう、よく続いたなぁと(笑)
――イキナリそれですか!? そんなの書いて良いのですか?
んー、いいですよ。でも感慨的には多分そんな所だと思います(苦笑)
――あー。・・・・・・良く解りました。
では折も良いので、『処女はお姉さまに恋してる』を知らないお客様のため、原作PCゲームの制作の頃から、振り返ってお話を伺ってもよろしいでしょうか?
のっけから修羅場だったんです。私がPCゲームの制作に関わり始めた頃っていうのが、業界的に色々な問題があったころで、しょっちゅうライターがいなくなったり、イラストレーターの心が折れたりする頃だったんですね。あ、いまもそうかな(笑)
――えー・・・・・・。先生・・・。
ド頭からガチンコですか(笑)
いや、だってほんとになんというかホント凄い世界で。その当時の私は半分ライターで、半分デザイナーのような仕事をしていたんですけれど、なんか芽も出ないし、そろそろ別の仕事でも探さなきゃなぁと思っていたんです。そんな時にライターとして来ないかっていうお話があって、もう一度だけ頑張ってみようかなと思って。
ただ、入社が決まったときに偉い人とお話していて、開口一番で
"君の新作がコケたら、僕たち大変なことになるから(キラッ)"といわれまして(笑)
――大変な事に?(笑)
ええ、大変な事に(笑)。
"えー! 今言うんだ"と思って逆に笑っちゃいました。でもまぁ慌てて立てた3本ぐらいの企画の中に『処女はお姉さまに恋してる』の原型があったんです。
まぁあの時代、あの時期のアニメや小説をご覧になってきた方ならご存知の通り、リスペクトしていた作品がありまして、それをどうやったら美少女ゲームにできるのかという所から始まったんですね。
――十字架的な物を授受してみてる感じの名作ですね。それはあの時代を知る人なら薄々感じていると思いますが、
それ以上に確立されたヒロイン? 初代最強の男の娘? 宮小路 瑞穂 のキャラクターの誕生は大きいのではないでしょうか。
そうですね。まぁ当時男の娘なんていう言葉は無かったですけれど、意識して形作ったキャラクターではありました。
でも何より先ほどからお話に出ている某を見て感じた事、ヒロインを主人公として物語が作られているのではなくて、先輩キャラクターの独特の立ち位置や、彼女達を取り巻く世界観の深さがこの作品を作り、魅力的に見せているのではないか、そういった雰囲気を如何に無理なくPCゲームの世界に構築できるかという事を一番に意識しました。瑞穂の存在というのは、その中で生まれてきた偶発的な立ち位置なのだと思います。
――そんな物語の世界の中で、外郭ともなる聖應女学院という学校の存在は大きいと思いますが、
この学校という設計に関してはこだわりのようなものはあるのですか?
学園モノって基本中の基本じゃないですか、エロゲーマーとして色々プレイしてきたゲームの中で、色々な学校に出会いましたけれど、学校っていう舞台はゲーム世界では現実以上に一個の小世界だと思うんです。学校をデザインすることイコールそのゲームの世界観のデザインだと。
だから凄く面白いですよね。こんな学校があるといいな、面白いなっていう所から学生が生まれて先生が生まれて、生徒会とか、部活とか様々な要素が生まれてゆくんです。ただ個人的には優雅な、古き良きお嬢様学園って言うものを作ってみたかったという気持ちはありました。
――そういった世界観に配された中で、前作に引き続き今作でも主人公クラスの一人となった、周防院 奏 について伺わせてください。
PCゲーム制作の折に最初に奏について考えたのは凄くシンプルで、主人公がお姉さまだから妹がいるよね。
主人公が強くあるために、弱い子、守られる存在がいなくてはいけなよね。
そんな積み重ねから生まれた子なんで、作者的にあまりひどい人生を歩ませるのもどうかと思いつつ、でもまぁドラマのない人生はゲームとして成り立たないので、ごめんねと思いながら書いていたんですけど。
――PCゲームでの薄幸な妹という印象が強いせいか、櫻の園のエトワールでの奏の成長は非常に印象的に写りますね。
PC版の奏エンドで、既に奏の成長、そしてこの作品の最後を飾るシーンへ至る一連の物語というのは確定している話なので、それに向かって描かれているというのはありますね。PC版のエンディング自体はパラレルで、こうあったら面白いよね。というポイントを全て入れてしまっていたので、複数のキャラクターの細かいエンディングの影響を考えると色々困っちゃうのですが、そのあたりは心優しいお客様にサラッと流していただいてですね(笑)
強くなったということに関しては、ストーリー中の展開どおりかなと思っています。
――偉大な先輩であり、お姉さまである瑞穂の背を見て成長してゆくヒロインの姿、だったのですか。
そうですね。櫻の園のエトワールの中盤で"私は許してもらいましたから・・・・・・お姉さまに"という下りがあったと思うのですけれど、自分という存在を他の人に許されないという不安さで、自分に自信が無かったし、誰かに可愛がられるように口調も変えてみたけれどというのがあったかと思うんですけれど、お姉さま達が卒業してしまった今、由佳里と2人でちょっと頑張ってみようと話し合った結果の今だと思うんですよ。
急激な変化に見えるんですけれど、作中の序盤の頃、先輩になりたての2人は、新たな自分という仮面を作って貼っているようなぎこちない所が、本人達にはあるのかもしれないですね。
――薫子という妹が出来たことも変化のきっかけになったのかもしれませんね。
奏から見ると薫子は異邦人的な存在ですし、物語としての薫子は聖應女学院という異世界に飛び込んでしまったヒロインという、モンスターも魔法もない現実の異世界ものという捉え方なんですね。薫子が飛び込んだ異世界で、彼女を導き育て、そのうちに自分も成長している事を知ってゆく。2人の関係はそんなものかもしれませんね。
現実の社会の中で、新たな学校や異業種の会社という異世界に入ったりすると、その組織特有のルールや約束事に序盤は戸惑って、つらい思いをすることがあるかもしれません。ただ、時間をかけてそれを学んでゆくことによって、少しずつ自分の居場所を見つけてゆく。それがこの物語における薫子のテーマの一つだったのかもしれませんね。
うわ、テーマだって・・・、なんとなくカッコよくないですか?(笑)
――えー、スルーします(笑)
ちぇ(笑)。
まあ前作の瑞穂と同様に、このエトワールのキャラクターたちは皆、成長するヒロインだったということだと思います。物語というくらいだから、始まりから終わりに至る過程で何か得るものが欲しいですし、成長するということはきっと私にとって書き続ける大きなテーマなんだと思いますね。
――そもそもこちらの原作は一冊の同人誌だったと伺っています。その執筆の経緯はどのような事からだったのでしょうか?
『処女はお姉さまに恋してる』のオンリーイベントを開催していただけるという連絡を主催者の方から頂いて、まさかゲーム一本でオンリーイベントを開催していただけるなんて思っても見なかったので、開催してくださるという方にも何かの形でお礼をしなくてはならないなぁと思い、慌てて書いたんです。
ただ時間的な問題もあったので、エンターブレインさんが小説にしてくださった物の半分より少ないくらいしか書けなくて、入寮式から由佳里が生徒会長に推薦される下りまでだったんですが、小説化のお話を頂いた時に、時間軸を調整して順番を入れ替え、残りの大半を新たに書き起こしました。
――何かで拝見させていただいた折に、私の唯一の一般作品ですとおっしゃっておられましたが。
当時から本当に万々歳で、すげー!もう二度と無いなと(笑)
――そんなこと無いですよ(笑) 小説というお仕事は、以前からご興味があったのですか?
不思議なもので、以前は小説を書くという事はあまり考えていなかったんですが、開発スタッフや他のシナリオライターさんと話していると、ずっと独学で作ってきたせいか、私のシナリオの書き方は若干小説を書くような話の進め方になっているようで。
今だからこそ笑っていえるのは、一行の文章は必ずゲーム下部のテキストウインドウの中で完結するように作るのが普通なんですが、初期のPCゲームでの制作当時は全く考えずにウィンドウ二つにわたって文章が続いてしまっていて、一部お客様に対して読みづらいものを作ってしまっていたんです。
どうも台詞に頼らないというか、状況描写がやたらと長い作風なので、その辺りのクセが小説っぽいものになっているのかなと思います。
――小説っぽいとおっしゃっておられましたが、どういった作り方でシナリオ制作を進めておられるのですか?
私自身ストーリー巧者ではないので"雰囲気原作者"なんて呼ばれているのですが、話の筋自体は大して複雑に作っていません。
荒っぽい言い方をするならば、"可愛い女の子とカッコイイ男の子がいました。幸せになりました"という形をゲームとしてどういうふうに描けるのかということを追求しているんですね。
今回どんな話にしようかなという所から初めて、ヒロインのメイン語りを考えて、そこから広がって繋がっていく感じですね。
主人公がお姉さまならば妹がいる、イライザみたいなライバルがいる、ナビゲータとして先輩のような親友がいるだろうという形で派生して配置してゆくと、一つの世界になっていくというような方法ですね。
そうして配置したキャラクターたちを、プロローグからエンディングまで一連の流れで走らせているうちに、選択肢によってそれぞれの物語に分岐してゆく、そんな感覚になりますね。
ちょっと脱線しますけれど、初めて商業で書かせてもらったシナリオというのが、RPGで仲良くパーティプレイをしつつ、冒険を進めるというAVGだったんですよ。RPGじゃないじゃんっていう突っ込みはさて置いて、
――RPGじゃないじゃん(笑)
うがー!(笑)
ヒロインと、他の女の子2人の4人で仲良く冒険を続けていくうちに、物語中盤で大事件が起こってパーティがバラバラになってしまい、ヒロインと主人公の2人だけで冒険をするというスタンスで作ったのですが、この時に他の女の子と別れてしまうという展開が大変不評だったんですよ。
"他のキャラが出てこなくなってしまった寂しいよ"とか、"もっと4人全員の漫才が見たいよ"とか、そういう意見を非常に沢山頂いていて、ヒロインを引き立てるためには、ヒロイン以外の存在というのも凄く大事なんだなというのをそこで学んだんです。
その経験を生かして作ったのがこの『処女はお姉さまに恋してる』の世界観だったので、ヒロインとしての瑞穂を先ほど褒めていただきましたけれど、そういったスタンスが成り立っているのは、周りのヒロインのおかげだとも言えると思うんです。
――書いて来られて行き詰ったりされないんですか?
結構しますよ。途中で話につまったりすると、今までの登場人物がどれくらい出ているのかを調べて、最も出てきていない人物を、先ほどの例で言うならば作ってきた世界配置のスタートから学園の中、町の中をふらりと歩かせるんですよ。
そうすると配置した別のキャラクターたちに自動的に出会って、新たな話や、既存の話に深みや要素がプラスされてゆく。そんな形になるんですよね。
ただプロット構成的にはあまりよくなくて、プロット通りには進むんだけれど、見せ場になる舞台にたどり着くまでの過程は、大体いつも想像していた流れとは違う内容になりますね。