昨夜の雨に濡れた桜の若葉が雫をきらきらと光らせながら、鮮やかな緑色を透かして揺れている…校舎までの短い桜並木に、少女達の黄色い笑い声と軽い靴音が弾むように響いている。
その光景は、とても清純で美しく、清々しい。
ここは、聖應(せいおう)女学院──。
あの錚々(そうそう)たるメンバーを送り出した春、三月からひと月。
並木の桜たちも、春休みの浮ついた気持ちはそろそろ終わりと、生徒たちを戒めるように優しく静かに花びらを脱ぎ、青葉に衣を替え始める四月。 昨年度エルダー・宮小路瑞穂(みやのこうじみずほ)を筆頭に、十条紫苑(じゅうじょうしおん)、厳島貴子(いつくしまたかこ)、御門(みかど)まりや……第百九期メンバーが卒業し、聖應女学院も燈も消えたような寂しさに包まれて……?
いいえ、そんなことはありません。
小さい芽かも知れないけれど、そこにはまた、可憐で美しい花を咲かせようとする蕾たちが。
新しい出逢いと別れを繰り返して、少女たちは成長し…そして大人になってゆくのだから。
見えるでしょう? 櫻の園の中で小さな輝きを放つ、おぼろげな光たちが。
不安と希望に揺れる──櫻の園の、エトワール。